全国の小中学生らに一人一台のタブレット端末などの配備が進む中、閲覧や使用を制限する「フィルタリング」を学校側が設定しても、子どもが抜け道や裏技を使ってゲームや動画サイトに熱中する問題が起きている。「GIGA(ギガ)スクール構想」を掲げ政府が主導した高価な学習用端末が「ゲーム機」となってしまう状況に、学校関係者や保護者は頭を悩ませている。 (北村希)
「小三の長男が毎日、家でゲームをして困っている」。岐阜市内のある母親(42)が打ち明ける。
同市の端末配備は中部地方の中で早い。昨年九月末までに公立小中学校、特別支援学校の全児童生徒らに約三万二千台を配った。一台ずつネット回線を付け、当初から家に持ち帰らせている。フィルタリングをかけ、ユーチューブなどの動画サイトやブログ、有害サイトは見られない。アプリは学習用に限り各校が市教委に申請し、搭載する仕組みだ。
だが、長男は使用が認められているプログラミングアプリの中で、他の利用者が作った多数のゲームを発見。春休みは一日五時間ほど熱中した。最近は友達と情報交換し、他にもネット上のゲームを見つけては遊んでいる。大型連休で懸念はさらに増す。
母親は「子どもに端末が『学習用』という意識はない。初めての自分専用で、一気にデジタル機器に触れる時間が増えた。視力低下やゲーム依存が心配だが、家での活用は家庭に丸投げの印象」と憂える。
岐阜市教委によると、使えないはずのユーチューブでゲームの解説動画を二十四時間流し、昼夜逆転した子もいた。月の通信量が基準の5ギガバイトを大きく上回る100ギガバイトを超えたため、本人への聞き取りと利用履歴から判明。使われた裏技は、全端末の基本ソフト(OS)を更新することで封じた。
ただ裏技は一部の子どもが調べ、塾などで広まっているという。市教委の担当者は「抜け道をふさいでも子どもは別の方法を考えるため、いたちごっこ。規制と同時に付き合い方の教育も力を入れたい」と話す。
端末配備が遅れている名古屋市は本年度中に全員への配備を終え、持ち帰りを進める方針だ。現状はゲームやアニメなどを除きユーチューブの視聴、アプリの搭載を許可。担当者は「調べ学習と遊びの境界は難しい。運用しながらフィルタリングの強弱を調整する」と話す。モデル校で試験的に持ち帰らせる予定の津市は使い方は小中や学年で異なるとして、各校で児童会や生徒会主体にルール作りをするよう求めている。
文部科学省は、新型コロナウイルスによる休校など非常時の学びの保障や家庭学習での有効性から、端末の積極的な持ち帰りを勧めている。3月12日付で、端末の利活用に関する注意点や保護者との共有事項を各都道府県に通知。抜け道を使って学習以外に使われる実態について「各教育委員会に、適切なルールを作らせ、使い方の教育を徹底させたい」とする。
NTTドコモによると、提供するフィルタリングでは閲覧の制限に加えて、管理者側による通信量の把握も可能。ただ、基本ソフト(OS)の設定変更でフィルタリングを無効にできる上、可否の区別が難しい検索ワードもあり、担当者は「限界がある」と話す。
愛知教育大の江島徹郎(てつろう)教授(メディア教育)は、ネット上で新しいゲームや動画サイトが増える中、「完璧な管理は無理という前提に立つ必要がある」と指摘。子どもに、自覚を持って使うようにさせる重要性を説く。「一方的に制限すると反発したくなるのが子ども」といい、なぜ制限が必要なのかを子どもに納得してもらい、子どもも含めてルール作りをするのが理想という。
https://www.chunichi.co.jp/article/246312