キリンホールディングス(HD)が進める多角化路線に、「モノ言う株主」から異議を突きつけられている。ビール事業に集中し、医薬・健康事業を売却して6000億円の自社株買いをせよというのだ。
2020年3月27日の定時株主総会に向け、駆け引きが本格化している。
国内の「ビール離れ」対策は共通課題
2019年10月、キリンHDの発行済み株式の2%強を保有する英投資会社「フランチャイズ・パートナーズ」(FP)からキリンHDに、多角化見直しを求める書簡が届いた。
この中身を考える前に、この間のキリンの主な投資の流れをおさらいしておこう。
いうまでもなく、人口減少や若者のビール離れを受け、国内のビール市場が頭打ちになる中、ビール業界で「国際化」「多角化」が意識されるのは当然の流れだ。ライバルのサントリーの米蒸留酒大手「ビーム」買収(2014年5月)、アサヒグループHDの豪ビール最大手「カールトン&ユナイテッドブルワリーズ」買収(2019年7月)などが大型M&Aとして知られる。
キリンHDも2011年にブラジルでビール2位「スキンカリオール」を約3000億円で買収したが、赤字垂れ流しで2017年に770億円で売却。2007年にやはり3000億円近くで買収した豪乳製品・飲料事業は、先に出資した豪ビール事業とのシナジー効果を生めず、チーズ事業を2019年10月に約200億円で売却し、飲料事業も2020年中に450億円で売却(2019年11月発表)と、投資の躓きもあるが、2019年11月に米クラフトビール大手「ニュー・ベルジャン・ブルーイング」を買収(価格は非公表)し、高級品をラインアップに加えて本業のビール強化に取り組む姿勢に変化はない。
他方、同年4月に協和発酵バイオを約1280億円で子会社化、8月には化粧品・健康食品大手のファンケルと資本業務提携し、株33%を約1300億円で取得し、多角化推進も鮮明にしているといった具合だ。
伸び悩む株価に厳しい目線
この間、国内の第3のビール「本麒麟」が大ヒットし、主力ブランド「一番搾り」も好調の一方、豪ビール事業などは不振。また、協和発酵バイオで品質管理問題が発覚し、2019年9月から一部製品の出荷停止が続いている。2019年12月期決算は、売却予定の豪飲料事業で571億円の減損を計上したことも響き、純利益が前期比64%減の596億円にとどまった。
こうした状況は、「脱・ビール依存」、医薬・健康事業の強化の途上といえ、キリンHDはこの路線に沿って、2021年12月期までの3年で3000億円のM&A枠を設けて事業の入れ替えや強化を進める方針だ(ファンケルへの出資もその一部に含まれる)。
ただ、市場にはあまり評価されていないようだ。2019年の株価の年間騰落率はプラス6.1%で、ライバルのアサヒGHDのプラス18.7%に見劣りする。
そんな中での英FPの多角化批判なのだ。昨秋の書簡以降、水面下で話し合ったが、決裂し、2020年1月、医薬事業など「非中核事業」を売却し、6000億円の自社株買いを実施するとともに、2人の社外取締役候補を株主提案している。医薬・健康事業は本業のビールとの相乗効果が見当たらないというのが理由だ。この間の「コロナ・ショック」の下げを除いて2200〜2600円で推移している株価について、FPは本業のビール事業に経営資源を集中すれば、理論値で3700円程度は可能とみているという。
本格的なプロキシーファイトには至らない?
キリンHDは2月の取締役会でFPの株主提案への反対を決議。併せて社外取締役に外国人2人を起用するなど社外取締役を過半にし、ガバナンス強化やグローバル化への迅速な対応を進める方針を打ち出している。
FP側は他の機関投資家などに接触して主張への理解を訴えている模様だ。米議決権行使助言会社インスティテューショナル・シェアホルダー・サービシーズ(ISS)は、FP提案取締役候補のうち1人だけは選任に賛成推奨する一方、キリンHD提案の候補1人に反対していることが3月13日に判明。ただ、ISSは医療・健康事業売却には反対推奨しており、FPの提案が広く浸透しているとは言えないようで、本格的なプロキシーファイト(株主争奪戦)に発展するかは微妙と見る関係者が多い。それでも、株主総会でFPへの賛成票の集まり具合によっては、キリンHDの経営戦略に微妙な影響を与える可能性もある。
2020/3/22 17:00
https://www.j-cast.com/2020/03/22382656.html?p=all
2020年3月27日の定時株主総会に向け、駆け引きが本格化している。
国内の「ビール離れ」対策は共通課題
2019年10月、キリンHDの発行済み株式の2%強を保有する英投資会社「フランチャイズ・パートナーズ」(FP)からキリンHDに、多角化見直しを求める書簡が届いた。
この中身を考える前に、この間のキリンの主な投資の流れをおさらいしておこう。
いうまでもなく、人口減少や若者のビール離れを受け、国内のビール市場が頭打ちになる中、ビール業界で「国際化」「多角化」が意識されるのは当然の流れだ。ライバルのサントリーの米蒸留酒大手「ビーム」買収(2014年5月)、アサヒグループHDの豪ビール最大手「カールトン&ユナイテッドブルワリーズ」買収(2019年7月)などが大型M&Aとして知られる。
キリンHDも2011年にブラジルでビール2位「スキンカリオール」を約3000億円で買収したが、赤字垂れ流しで2017年に770億円で売却。2007年にやはり3000億円近くで買収した豪乳製品・飲料事業は、先に出資した豪ビール事業とのシナジー効果を生めず、チーズ事業を2019年10月に約200億円で売却し、飲料事業も2020年中に450億円で売却(2019年11月発表)と、投資の躓きもあるが、2019年11月に米クラフトビール大手「ニュー・ベルジャン・ブルーイング」を買収(価格は非公表)し、高級品をラインアップに加えて本業のビール強化に取り組む姿勢に変化はない。
他方、同年4月に協和発酵バイオを約1280億円で子会社化、8月には化粧品・健康食品大手のファンケルと資本業務提携し、株33%を約1300億円で取得し、多角化推進も鮮明にしているといった具合だ。
伸び悩む株価に厳しい目線
この間、国内の第3のビール「本麒麟」が大ヒットし、主力ブランド「一番搾り」も好調の一方、豪ビール事業などは不振。また、協和発酵バイオで品質管理問題が発覚し、2019年9月から一部製品の出荷停止が続いている。2019年12月期決算は、売却予定の豪飲料事業で571億円の減損を計上したことも響き、純利益が前期比64%減の596億円にとどまった。
こうした状況は、「脱・ビール依存」、医薬・健康事業の強化の途上といえ、キリンHDはこの路線に沿って、2021年12月期までの3年で3000億円のM&A枠を設けて事業の入れ替えや強化を進める方針だ(ファンケルへの出資もその一部に含まれる)。
ただ、市場にはあまり評価されていないようだ。2019年の株価の年間騰落率はプラス6.1%で、ライバルのアサヒGHDのプラス18.7%に見劣りする。
そんな中での英FPの多角化批判なのだ。昨秋の書簡以降、水面下で話し合ったが、決裂し、2020年1月、医薬事業など「非中核事業」を売却し、6000億円の自社株買いを実施するとともに、2人の社外取締役候補を株主提案している。医薬・健康事業は本業のビールとの相乗効果が見当たらないというのが理由だ。この間の「コロナ・ショック」の下げを除いて2200〜2600円で推移している株価について、FPは本業のビール事業に経営資源を集中すれば、理論値で3700円程度は可能とみているという。
本格的なプロキシーファイトには至らない?
キリンHDは2月の取締役会でFPの株主提案への反対を決議。併せて社外取締役に外国人2人を起用するなど社外取締役を過半にし、ガバナンス強化やグローバル化への迅速な対応を進める方針を打ち出している。
FP側は他の機関投資家などに接触して主張への理解を訴えている模様だ。米議決権行使助言会社インスティテューショナル・シェアホルダー・サービシーズ(ISS)は、FP提案取締役候補のうち1人だけは選任に賛成推奨する一方、キリンHD提案の候補1人に反対していることが3月13日に判明。ただ、ISSは医療・健康事業売却には反対推奨しており、FPの提案が広く浸透しているとは言えないようで、本格的なプロキシーファイト(株主争奪戦)に発展するかは微妙と見る関係者が多い。それでも、株主総会でFPへの賛成票の集まり具合によっては、キリンHDの経営戦略に微妙な影響を与える可能性もある。
2020/3/22 17:00
https://www.j-cast.com/2020/03/22382656.html?p=all