「嘘つきと言う以上は明確に私が嘘をついている“証拠”を示していただかなければいけない」──。
加計問題を国会で追及された安倍晋三首相はそう色をなして反論したが、苛立ちの理由はまさしく、次々と“なかったはずの新証拠”が出てきているところにありそうだ。
加計学園の獣医学部認可問題で官邸中枢に火が回った。〈本件は、首相案件〉という、柳瀬唯夫・元首相秘書官(現在は経済産業審議官)の発言を記録した愛媛県庁職員のメモの存在が明らかになったからだ。
多くの疑惑を乗り切ってきた官邸サイドはなおも強気な言い方をするが、安倍首相にとって、一連の公文書疑惑の展開は今までとは違う。一つの疑惑を逃げ切ったと思うと、官僚が忖度して処分したはずの不都合な記録がどこからか漏れ出し、それを首相の「天敵」である朝日新聞がスクープする。いつまで経っても「底なし沼」のように疑惑から抜け出すことができない。
◆霞が関「大粛清計画」
「どうして朝日がこんなに都合良くスクープを飛ばせるんだ。“後ろ”から鉄砲を撃たれているとしか思えない」
官邸の安倍最側近の1人は、公文書問題の噴出は朝日と手を組んだ霞が関の“謀叛”の動きだと感じ取っている。
「財務省は文書改竄問題で総崩れのように見えるが、責任を負わされたのは佐川宣寿・前国税庁長官だけ。加計メモでは柳瀬審議官という、いずれも総理が目をかけて出世させた2人の官僚が“スケープゴート”にされた。財務省など霞が関の反対勢力はたとえ役所が傷を負っても、政権を潰そうと一斉に自作自演の自爆テロを仕掛けてきたんじゃないか。上層部はそんな疑心暗鬼に陥っている」(経産省出身の官邸スタッフ)
反乱のきっかけは、官邸から浮上した中央省庁の再々編構想だ。
安倍首相の“盟友”として知られる甘利明・自民党行革推進本部長は、3月下旬に各府省に文書を送り、橋本行革の点検と検証のためのヒアリングを行なうことを通告。霞が関に激震が走った。橋本政権下で進められた中央省庁再編(実現は2001年)では、折からの大蔵官官接待汚職で霞が関に大ナタが振るわれ、それまでの1府22省庁を1府12省庁に再編した。事務次官10人のクビを切ったのだ。
通告が出たのが佐川喚問の直前だったことから、文書改竄問題で追い詰められた安倍官邸が“懲罰”として「霞が関大粛清」に乗り出すと受け止められた。
自民党内では、5月の連休後から議論を開始し、「秋の総裁選の前に“新たな省庁再編案”の叩き台をまとめることになるだろう」(自民党幹部)というスケジュールが検討されている。“お家取り潰し”や“解体”の候補には財務省をはじめ、安倍政権の看板政策・働き方改革のデータ改竄を行なった厚労省、外務省、総務省、そして内閣府とほとんどの重要官庁が標的になる。
安倍首相にとって“見せしめ”の一番手は財務省だ。同省の権力の“源”となっている国税庁を分離し、社会保険料を集める日本年金機構(旧社会保険庁)を統合して歳入庁を設置する。強力な税務調査権を握る徴税部門を失えば、同省は政治家に抵抗できなくなる。
第二の消えた年金問題(※注)や、労働時間調査のデータ改竄で政権の足を引っ張る厚労省は「社会保障省」「国民生活省」「子ども・子育て省」などに分割、“独立王国”といわれた外務省は経産省の通商・貿易部門と統合し、総務省からは電波・放送行政を分離して経産省に吸収させ、放送メディアとネットメディアに対する官邸の睨みを強化する──という構想が練られている。
【※注/今年2月に支給される年金で、約130万人が「過少支給」となっていた問題。記入項目が大幅に増えた申告書の手続きミス、委託業者のデータ入力ミスが重なった。3月20日になって日本年金機構が会見で明らかにした】
元財務官僚の小黒一正・法政大学教授が指摘する。
「国民目線に立てば、本来、行政改革は不断に取り組むべき課題ですが、官僚不祥事をきっかけとして、政権がマイナスイメージを払拭するためにやるのは本末転倒になる。そもそも今回の官僚不祥事の背景には、官僚の人事権を握った官邸が、首相の指示に従った者を出世させ、そうでない者は飛ばすなど、恣意的な人事を行なっている印象を与えてしまったことが遠因になっている。透明性を欠いたまま、役所に対するペナルティで省庁再編を掲げても大義がない」
※週刊ポスト2018年4月27日号
ポストセブン
4/17(火) 7:00配信
https://headlines.yahoo.co.jp/article?a=20180417-00000006-pseven-soci